渇く豪大陸
オーストラリアを襲っている記録的な干ばつについてはここでも何度も取り上げているが、11月18日の朝日新聞の国際面「世界発2006」に、「渇く豪大陸」と題する記事が載った。記録のため、その全文を転載させていただくことにする。
—————————————————————————
オーストラリアが史上最悪という干ばつに見舞われている。主要農産物の小麦の収穫量は前年比6割減となる見通しで、豪州産に頼る日本などへの影響は必至だ。豪政府は被害農家への支援に乗り出したが、頼みの雨が降らない限り、抜本的な解決にならない。地球温暖化の影響が指摘され、来秋に総選挙を控えてハワード首相は矢継ぎ早に温暖化対策を打ち出すが、野党や自然保護団体は「付け焼き刃の選挙対策」と批判する。
パークス〈豪ニューサウスウエールズ州)=杉井昭仁)
渇く豪大陸
小麦収穫6割減を予測

干上がった「ため池」に立つティモシー・オアさん(左)とスパイクスさん兄弟
シドニーから飛行機で1時間弱の内陸部の町パークス。人口は約1万人。多くは農業か銅鉱山で生計を立てている。
「10月は雨が一滴も降らなかった」と農家向けの雑貨店を経営するグレッグ・ラウトさん(46)は話す。今年の降雨量は例年の3分の1程度で、今から降っても今年の収穫には間に合わないという。「売り上げは前年の3割減。凶作で農家の収入が激減する来年は一体どうなることやら」
「実の数も大きさもいつもの半分。50年やってきて、こんなのは初めてだ」。例年なら、腰の高さまで青々とした小麦が一面に広がっていたはずの畑でジョン・マギルさん(64)は嘆いた。
小麦は枯れ草にしか見えず、丈はひざまで届かないため、機械での刈り取りができない。約200頭いる牛に食べさせることにした。飼料の穀物も値上がりしており、多くの農家は牛や羊を手放さざるを得ないという。
小麦と羊を育てるボブ・オアさん(63)一家が「ため池」に案内してくれた。底の土にはひび割れが広がっていた。息子のティモシーさん(29)とスパイクさん(21)は「ここでやっていくしかない」とつぶやいた。例年なら1万3千頭前後いる羊も半分に減らした。干ばつが続けばさらに減らさざるを得ないという。
「行き詰まって自殺に追い込まれる人もいる」と農林水産省の担当者は話す。うつ病や心身の変調などを調べているNGO「ビヨンド・ブルー」は10月、今年に入って4日に1人の農民が自ら命を絶っているとの調査結果を発表。専門家によるきめ細かなカウンセリングが必要だと提言した。
◆
今回の干ばつは、穀物の収穫量が前年比で半減した02年を上回り、「豪州で気象観測が始まって以来最悪」と言われる。
豪農業資源経済局は10月末、06年度(06年7月~07年6月)の小麦生産量が前年度比63%減の955万トンにとどまるとの予測を発表した。大麦や菜種油も6~7割減の大打撃を受ける見通しだ。豪中央銀行は国内総生産(GDP)を0.75ポイント押し下げるとみている。
政府は9月、首相府に「水資源対策室」を設置すると発表。各州が持つダム管理などの権限を調整し、国全体で水資源を効率的に利用する仕組みづくりに乗り出した。被害が大きい地域に対し、収入補填や金利負担の補助として計5億6千万豪ドル(約510億円)の緊急支援を決定。相談窓口の設置も決めた。
ただどれも対症療法。政府の担当者からさえ「雨が降らなければ、どんなにカネをつぎ込んでも砂に水をやるようなもの」との声が聞かれる。
豪州は米国、カナダに次ぐ世界3位の小麦供給国。国際価格にも影響が出ている。シカゴ商品取引所では10月、1ブッシェル(約27キロ)当たりの価格がここ10年で最大の上げ幅を記録。1ブッシェル=5ドル前後と昨年比の2割高で推移している。
政府はアルゼンチンなどから輸入してでも日本など向けの小麦を確保する方針だが、うどんなどに使われるブレンド小麦は他国産では代替できないとされる。飼料穀物の価格も上昇しており、肉類やチーズなど乳製品の高騰も懸念されている。
首相慌てて温暖化対策
野党「選挙向け」と批判
ビーズリー労働党党首
「首相は故意に(地球温暖化防止のための)京都議定書を座礁させ、温暖化対策を怠った。そのツケが大干ばつだ」
ハワード首相
「米国や中国、インドが参加しない京都議定書は役に立たない。参加は豪州の経済に有害ですらある」
大干ばつを受け、連邦議会では温暖化対策をめぐる激しい論戦が交わされた。総選挙に向けて政策の違いを打ち出せない野党労働党にとって、独自性を打ち出す格好のテーマだからだ。豪州は米国とともに京都議定書を批准していない。
ナイロビでの国連気候変動枠組み条約第12回締約国会議(COP12)を控えた10月末、英政府が「温室効果ガスの排出が続けば破滅的な状況を招く」とする報告書を公表したことも野党を勢いづかせた。
野党の攻勢に首相は、ビクトリア州での世界最大級の太陽光発電プラント建設、5億豪ドル(約450億円)を投入する二酸化炭素の削減システムや自然エネルギー利用研究の推進……と相次ぎ対策を打ち出した。政権内からは国民の猛反発が必至の「原子力発電所建設が温暖化対策に有効」との発言まで飛び出した。
首相は18日からのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、米豪や日韓、中国、インドが参加する独自の排出権取引制度をつくる構想を提案する考えだ。
一方、野党は「本気で取り組むつもりならとっくに京都議定書を批准しているはず。総選挙対策にすぎない」(緑の党のクリスティン・ミルン上院議員)と反発する。
雨量3分の1
オーストラリアの気候と農業
年平均降雨量が460㍉前後で日本の約4分の1。小麦の作付け地はニューサウスウエールズ州からビクトリア州、南オーストラリア州一帯と、西オーストラリア州の沿岸部に限られ、国土の3%に満たない。ここ10年ほどの少雨に加え、02年の干ばつから土壌の水分が回復しないうちに再び干ばつに襲われ、影響は深刻さを増している。





