アウトバックはどこから始まるの?
アウトバック Outback。それは、オーストラリアの内陸部に広がる砂漠を中心とする広大な人口希薄地帯を指す。オーストラリアの人口の90%は面積にして約5%の沿海地域に集中しており、内陸部地域の人口密度は1km²あたり1人以下である。しかし、ウルルを始めとする観光地が散在するほか、比較的気候が穏やかな地域では牧羊・養鶏が行われており、乾燥地域においてもラクダの飼育や鉄鉱石・石炭・ボーキサイト・ウラン・オパールなどを採掘する鉱業が盛んな地域もあり、オーストラリアの経済にとって看過できない重要な地域である。またオーストラリアの原住民であるアボリジニが伝統的な生活を維持している地域もある。(フリー百科事典『ウィキペディア)
2000年の旅でバスでアウトバックのほんの一部を通り抜けた我々にとっても、いつまで走っても景色が変わらないほど延々と続く赤茶けた大地(”Red Center”とも呼ばれる)は、シドニーのオペラハウスやハーバー・ブリッジなどよりずっと強烈に、最も「オーストラリアらしきもの」として印象に残っている。
9日の “Courier Mail” にこんな面白い記事が載っていた。
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アウトバックはどこから始まるのか? グレート・ディバイディング・レンジ the Great Dividing Range*1 を越えたどこかなのか、それとも海からある一定の距離を入ったところからなのか?
「アウトバック」はオーストラリアという国を定義する一つの言葉として役立ち、乾燥した奥地の大部分をカバーしているが、それが実際にどこから始まってどこで終るのかを理解するのはそう簡単ではない。

“WELCOME to outback”…..
Charleville は、うちがアウトバックの入り口だと主張している町の一つ
アウトバックについての神話や想像の多くは1890年代に始まる。それは、オーストラリアがパターソン A.B. Paterson*2 、ヘンリー・ローソン Henry Lawson、マイルス・フランクリン Miles Franklin、アダム・リンゼー・ゴードン Adam Lindsay Gordon など、当時のメディア・キングと呼ばれる傑出した作家たちに恵まれた時代だった。
当時、アウトバックは今に比べればずっと近くて農場や有刺鉄線のある場所だったが、彼らはブッシュの中のオーストラリアの精神的な中心にいると言われてきた。
都会の読者たちは、彼らの描くロマンティックな場所や登場人物、冒険物語に魅了された。しかし、すべてのオーストラリア人がこれらの物語を楽しんだのではなかった。
クイーンズランド工科大学 QUT のビクター・ハート Victor Hart によれば、アウトバックの考え方は、ヨーロッパ人の探検家たちが遠く離れた場所に行き植民地を作ることから始まった。白人たちはアウトバックを無人の地と考えており、バルクとウィルスの遠征 “Burke and Wills expedition*3 は『発見』のための旅だった。その後、先住民のアボリジニたちが彼らの土地から追い払われるようになり、アウトバックは先住民に対する恐怖の観念に変わっていった。

ここから先は何もないよ!
今はキャラバンの騒音が行き交い、白髪交じりの放浪者や若い人々がアウトバックを訪れている。彼らには、都会の制約や混雑とは対照的に、広い場所と自由が目に写るのだろう。
バーカルディン Barcaldine*4 の町長ロブ・チャンドラー Rob Chandler は、「アウトバックは我が町の広いメイン・ストリートから始まるんだ。もっと南東にあるマイルズやローマ、チンチラも自分の町が入り口だと言っているけどね。」と冗談めかして言う。
同様に、多くの町が “beyond the black stump”*5 の “Black stump” は自分の町だと主張している。
チャンドラー町長は、アウトバックはオーストラリア人の万物への情熱が始まる場所であって漠然としたものだろうと考える。「アウトバックにいるためには別にバードビル Birdsville*6 にいなければならないというわけではない。南東のボウデザート Beaudesert*7でも農家になれるんだから。アウトバックは奥地への魅力を感じればどこにでもある。それは地図の上のどこかというより心の問題だ。」
クイーンズランド大学のオーストラリア研究センターのデイビッド・カーター David Carter 教授は、「アウトバックがどこから始まるかを地図に描くのは論争をほじくるいい方法だ。かっては大雑把に農地が終わり田園が始まるところとだったのだろうが、今は多分ずっと西の方に移動してしまった」と話している。
一例として、パターソンの詩 “Man from Snowy River” に描かれた田舎が、今ではアウトバックだと思われることはほとんどない。そして多くの人は、スティーリー・ラッド Steele Rudd の古典的「ブッシュ・ストーリー」を生んだダーリン・ダウンズ Darling Downs も今やアウトバックではないと言う。
チャンドラーは、アウトバックの特徴はその方言と都会人と田舎人との違いだと考える。「ここでは通りを歩いているとき ‘G’day, how ya goin’?’ と声を掛け合うが、ブリスベンのウォーターフロントのエレベーターの中でこれをやられたらビックリしてしまうよ。」
クイーンズランド大学のグリーム・ターナー Graeme Turner 教授は、アウトバックは場所ではなく人間の関係の問題だと考える。「都会に住んでる人にとってはそんなに遠くない場所でもアウトバックだと思い、田舎に住んでいる人にとってはそれはもっとずっと遠いところにあるものだと思ってしまう。、その人がどこに住んでいるかによって、アウトバックはどんどん遠くなっていく。もし西部に住んでいる人なら、東のずっと遠いところということになるだろう。」
観光用のパンフレットには、アウトバックは特別な人々が住む特別な場所だと描かれている。観光ガイドは、あたかも他の場所はそう呼ぶには十分な程遠く離れたところではないよと言わんばかりに、自分たちの場所を「本当のアウトバック」と宣伝する。

Coober Pedy の町
アウトバックの人々は、独特な風景が独特なキャラクターを作り出した南オーストラリア州のクーバー・ペディ Coober Pedy*8 の鉱夫たちのように一風変わっていて、ダイヤモンドの原石か硬い木の実のようなところがある。
ある人々は、アウトバックと聞いて馬に乗っている人を思い浮かべ、そこで生きるのは大変なところだと思ってしまった。この考えが若い人たちや4WD愛好家にアピールしたのだった。「乗馬は4WDの初期のバージョン」とカーター教授は言う。
チャンドラー町長は、「多くの都会からの観光客は、アドベンチャーを求めてバーカルディーにやってくる。うんざりさせられるのは、今じゃ「ミニ」ででも来れてしまうのに、4WDが買えるまでアウトバックに来るのを何年も待ったという話を聞くことだ。」と話す。
カーター教授は言う。「アウトバックはかって人里離れた辺鄙な場所と考えられていたが、人々は今そこへ巡礼の長旅をしなければらならないと感じている。」と。
しかしハート氏は、「アボリジニの人々の視野の中にはアウトバックなどという概念はない(もしそれが遠く離れた開かれていない土地という意味であったとしたら)。白人のオーストラリア人はしばしばそこで純潔のアボリジニが見つかると言うけれども、本来そこは彼らが生まれ育った固有の土地の一部に過ぎないのだから。」と語る。
アボリジニの人々は、「アウトバック」よりむしろ「淡水に住む人 freshwater」または「海水に住む人 saltwater」という言葉の方をよく使う。
ケープ・ヨーク Cape York*9 のホープヴェイル Hopevale 出身の「海水人」であるハート氏は、アボリジニの文化は「塩水人」、「海水人」とも自分たちが他よりも優れていると思っていることからくるユーモラスな地方色を持っている、と言う。
「もしアウトバックがあるとしたら、それは恐らく、海岸沿いの都会からある程度の物理的な距離をおいて(そこがその人に、都会をを離れたと感じさせるに十分な距離でありさえすれば……)、そこで何かをやることを言うのだろう。」
筆者注:
- *1 the Great Dividing Range
- クイーンズランド内陸部を南北に走る大山脈
- *2 A.B. Paterson
- かの有名な(そして私が大好きな) “Waltzing Matilda” を作詞した詩人
- *3 Burke and Wills expedition
- 1860、61年に Burke と Wills が19名のメンバーを率いて行った探検の旅。南のメルボルンから北のカーペンタリア湾まで、距離にして約2800kmを踏破した。当時、オーストラリアは未だ全土が探検されておらず、ヨーロッパ移民には完全には知られていなかった。
- *4 Barcaldine
- クイーンズランド州のロックハンプトンから西に520km入った小さな町
- *5 “beyond the black stump
- オーストラリアのスラングで「人跡未踏の地」を意味する。
- *6 Birdville
- クイーンズランド州西部の小さな町。州都ブリスベンからは1600kmも離れている。
- *7 Beaudesert
- ブリスベンの南僅か64kmに位置する町
- *8 Coober Pedy
- アデレードの北約850キロにあるオパールの生産で有名な町。地下に作られた教会や、昼間は暑さで出来ないゴルフを光るボールを使って夜間に行うことなどで知られている。
- *9 Cape York
- クイーンズランド州の北部にある半島




